工場の暑熱対策・熱中症対策とは?

最高気温40℃!?
外がそんなに暑いなら、うちの工場の中はもっと暑くなっちゃうよ・・・
涼しい作業環境を整えないと新しい採用にもつながらないよ・・・
でも、エアコンをつけるっていっても電気代は高くなっちゃうしいったいどうしたらいいんだ!

こんな声が聞こえてきそうです。最近の夏の気温は、地球温暖化の影響なのか、ここ数年どんどん上がっていますよね。現場の方の健康を守るためにも、作業環境の整備において暑熱対策、熱中症対策はより重要になってきています。

目次

工場はなんで暑くなるの?

暑くなる原因は主に2つ
 1.外部からの侵入熱
 2.内部からの発生熱
こういった熱が工場内にこもってしまうことが主な原因です。

1.外部からの侵入熱

基本的には太陽からの熱に起因するものです。さらに3つの熱負荷に分類されます。

1-a.通過熱負荷

これは屋根や壁やガラスなど、内側と外側での温度差とその材質によって変化する負荷です。内側と外側の温度差が大きくて、薄っぺらい熱が伝わりやすい素材で仕切られている場合、温度の高いほうから低い方へ熱が通過して伝わっていくことになります。

1-b.日射負荷

これも太陽による熱ですが、直接太陽光によって内部が暖められてしまうものです。同じガラスでも黒っぽいガラスは日射をカットしやすかったり、北側よりも南側が、時間帯によって東西でも負荷が変化するのが特徴です。

1-c.外気負荷

これは太陽によって暖められた外部の空気が、換気設備を通って室内に入ってくるものです。冷房した部屋の窓を開けて換気をしたら外の暑い空気が入ってきてしまうイメージですね。

2.内部からの発生熱

これは工場の中で発生する熱負荷で、これも主に3つに分類されます。

2-a.機器負荷

これは一般の事務所でいえばOA機器、PCからの発熱ですが、工場にはこの発生要因がたくさんあります。熱処理炉、溶解炉、モーター、配電盤、蒸気配管、電線、洗浄用温水、研磨摩擦熱、生産に関するありとあらゆるところで熱が発生しています。

2-b.照明負荷

これは電気設備からの発熱を指します。少し前まで水銀灯が主流でしたが、今のLED照明も意外と発熱していて照度を確保するために明るくしているとこの発熱負荷も軽視はできません。

2-c.人体負荷

これは人から発する熱です。ほかの発生熱にもいえることですが、体温による発熱と呼気による発熱に分類されます。

工場の構造

多くの工場は、
外部からの熱が侵入しやすい素材でできていて(1-a)、
明るさを確保するための明かり取りの窓が多く(1-b)、
大空間であるが故に多くの換気をしたり、局所排気によって外に捨てた空気の代わりに多くの外気が入ってきて(1-c)、
生産機械からの熱が多く発生する(2-a)。
という暑熱対策にとっては不利な環境であることが多いです。また、生産ラインの変更により建物を建てたときと違う用途で生産されていることも多く、熱の出入りが考慮されていないことが多くあります。

工場での暑熱対策を考える上では、まず現状がどうなっているのか、目標とすべき状態はどのような状態なのか、をイメージすることが重要です。処理する熱にも、対流熱(顕熱、潜熱)、輻射熱、伝熱という種類があり、それぞれに必要な対策は異なってきます。

工場の暑熱対策や熱中症対策ができていないとどうなるの?

熱中症が発生する

総務省の発表によると、それぞれ5月から9月の熱中症での緊急搬送者は
2016年 50,412人
2017年 52,984人
2018年 95,137人
2019年 71,317人
2020年 64,869人(本年のみ6月~9月)
2021年 47,877人
2022年 71,029人
毎年60人~160人の方が命を落としています。また、上記の搬送者のうち毎年10%程度の 8,000人~10,000人が工場を含む仕事場から搬送されています。従業員の健康を守るためにも、工場内の作業環境を改善することが重要です。

生産性が落ちる

作業員の健康が害されてしまうと、工場の生産性は落ち業績にも影響が出てしまいます。また、せっかく採用した人材が作業環境を原因に離職してしまうケースもあり、人材定着の面からみても環境整備が重要となってきます。

工場の暑熱対策や熱中症対策はどういうものがあるの?

基本的には環境への対策と、人への対策に分けることができます。環境への対策は前述の熱を外から入れない、入った熱は内部で冷やす、内部で発生する熱を外に出す。という考え方が基本ですが、内部で発生した熱を外に出そうとすればするほど、新鮮な外気が工場内に流入してきますので、対策がいたちごっことなってしまう恐れもあります。

侵入してくる熱を遮断する

建物の構造を見直すことで外から侵入してくる熱を遮断します。特に屋根からの負荷を遮断できると効果が大きいです。
・屋根を二重にして空気層をつくり断熱する。
・屋根に遮熱塗料を塗る。
・屋根に遮熱材を張る。
といった対策が考えられますね。明かり取りの窓、鉄扉、シャッターなども熱が伝わりやすい場所なので注意が必要です。

侵入してくる暑い外気を冷やす

夏場の暑い空気が入ってくるときに、これを一次冷却処理する対策です。外気処理空調機、直接気化式涼風機、間接気化式涼風機など様々な構造、効果のものがあります。それぞれ単純な比較はできないですが、イニシャルコスト、ランニングコスト、効果で比較をします。

内部で発生する熱を排気する

局所排気設備により発生する熱がほかに影響しないように外に排出してしまうのが効果的です。外部から侵入する熱で暖められた全体的な空気はルーフファン、換気扇などの機械を使って全体的に排気をします。
・排気設備のすぐとなりの窓が開いていてショートサーキットとなっている。
・給気を自然給気に頼っていたが、排気設備の能力不足で思ったように給気されない。
などの不具合が起こりやすいため、排気する空気量をどこから給気し、どのようなルートで排気していくかの設計が重要です。設備としては以下のようなものが必要です。

給気設備

パスダクト(給気口):自然に空気が流入してくる
換気扇・給気ファン:外気をそのまま強制的に給気する
外気処理機:外気を冷却して強制的に給気する

搬送設備

長距離空気を動かすことができる送風機で空気の道を作る
機械サイズ、騒音、モーター容量、到達距離、搬送能力で選定する

排気設備

換気扇・ルーフファン:工場全体の空気を排出する
局所排気:熱、粉塵などを工場全体に拡散させずに排出する

侵入した熱、内部で発生した熱を冷やす

・空間を全体的に冷やす空調機
・エリアを絞って冷やし、風を送る空調機
・スポット的に冷やし、風を送る空調機
といった空調機を導入して、内部で熱を冷やす方法です。空調機ではなく、冷風扇の場合は工場内に湿気がたまりますので注意が必要です。

気流で体感温度を下げる

人は同じ温度でも皮膚まわりの空気が入れ替わり、汗が蒸発することで熱を逃がすことができるため、体感できる気流を強制的につくることで体感温度を下げることは有効です。

対策グッズを導入する

暑熱対策グッズを導入することも重要です。
人を直接冷やす空調服、冷水ベスト、保冷剤(PCM)、扇風機といったものがあります。

工場の暑熱対策や熱中症対策をを導入するにはどうしたら良いの?

導入するには?

1.現状把握

まず、対象エリアを明確にします。平面図、立面図、空調設備図、局所排気設備図、生産ライン図などをもとに対象エリアの形状、材質の把握、換気量、換気場所などを把握します。また、各所温度、湿度状況を把握するため、外気温度と対象エリアの温度などの実測データが必要となります。

2.目標値確認

計画立案の前に目標値を確認します。工場全体を冷やすのか、エリアを絞るのか、屋外と同等の温度を目指すのか、屋外よりも涼しくするのか、現状と合わせて目標値を決定します。

3.現地確認

次に、現地が図面通りになっているかを確認します。図面に落とし込まれていない情報はないか、現地で思ったよりも発熱している設備はないかサーモグラフィー等を用いて確認します。このとき、換気設備や空調設備が設計値通りの能力を発揮しているか把握することも重要です。

4.計画立案

目標値に向けた対策を立案します。このとき、3Dスキャナーなどを用いて施工まで意識した計画立案をすることをおすすめいたします。

5.施工

計画に合わせて施工を実施します。

6.効果測定

施工後に温度測定を行います。

「4.計画立案」までの現状把握には夏場のピークでの情報が必要となるため、施工実施する前の年までに現状データの取得とまとめを実施する必要があります。以下は、スケジュール感を掴む上でのモデルケースです。

5月 計画スタート・図面等収集
8月 現状把握完了
12月 計画立案
3月 施工準備・先行施工
5月 施工完了
8月 効果測定

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