「みんなの作業環境管理部」への期待
元厚生労働省労働基準局安全衛生部長
(一社)日本ボイラ協会副会長
半田 有通
私は、昭和58年(1983年)、労働省に入省し、安全衛生部安全課に配置されました。その時、渡された分厚い「安衛法便覧」を手にして、こういう感慨に襲われました。
「こんな電話帳のようなもの、誰が読むのだ?」と。
以来、このことは、私の大きな課題となり、模索続ける日々が続きました。そして、そのヒントを得たのは、昭和63年頃でした。まだ荒削りのものでしたが、様々の業務を経験し、或いは勉強する中で到達したのが、「性能要件基準」というものでした。
それまでの規制体系は、過去の災害事例などに基づいて「○○してはならない」、「△△しなければならない」という条文が並んでいます。「仕様基準」と言われる体系です。具体的でわかりやすい半面、「規制の隙間」が発生します。未規制の原因によって労災が起こればまた、条文を追加する。いたちごっこになり、その結果、法令集も電話帳のようなものになってしまっているのでした。
監督指導する側の我々でも、法令集と首っ引きでないと動けない。そんな法令を、企業現場で遵守するように要求しても、実効が上がるのか疑問です。
これに対し、性能要件基準は、「結果を求めるけれども、やり方は問わない。」というものです。
私は、化学物質対策課長を務めていた平成24年に、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、特定化学物質障害防止規則に、「一定の条件の下、有害物質の気中濃度を押さえることが出来るなら、その為の『発散抑制措置』は、局所排気装置でなくてもいい」という制度を創設しました。
それは、真の「性能要件化」ではなありませんが、それに近付く一歩だと考えていました。それから9年。令和3年7月に、「職場における化学物質等の管理の在り方に関する検討会」の報告書が取りまとめられました。同報告書には、副題として「化学物質への理解を高め、自律的な管理を基本とする仕組みへ」とあります。そして、それを踏まえた令和5年の法令改正で、一気に、大きく前進しました。
遂にここまで来たかと感無量です。関係者のご努力に、深く深く敬意を表します。
しかし、法令制度が整っても、それを実践するのは、「現場」です。
そのため、行政当局に於かれても、関係団体と連携しつつ、化学物質管理者の養成に取り組んでおられると承知しています。
しかし、やはりそこには、リーダーが必要です。そして、この「みんなの作業環境管理部」は、その役目を担える団体だと思うのです。
この団体の強みは、コンサルティングだけに止まらず、実際に、施設の改善のための具体的提案、施工まで担える。しかも、この団体には、夫々に長く、深い経験を持った、複数の会社が集まっています。それぞれが得意分野を持って、相互に連携しながら、あらゆる課題に合理的な対策を提示してくれると期待します。
安全な職場環境は、「作り上げていくもの」であり、「その維持には弛まぬ努力が必要」と考えます。理念だけではなく、経済合理性に則った取り組みが必要と考えています。その意味で、各事業場における取組に期待すると共に、この団体のような専門家集団が経済合理性に則って、活躍される時代になることを大いに期待しております。